直心直伝 「九州をつなぐ」

2013年7月6日

 今年の秋、十月十五日に博多駅を出発する豪華クルーズトレイン「ななつ星」。三泊四日の旅程で九州をほぼ一周する列車の旅は、ヨーロッパのオリエント急行を連想させる。

 博多駅を出発した「ななつ星」は大分の湯布院で昼食をとり、大分県内を散策後、夜汽車で宮崎へ向かう。勿論、特別に設計された車内は快適極まりない。何せ七両編成の列車に三十名の乗客しか乗せないのだから。

 太平洋の朝陽を浴びて宮崎を移動。市内観光の後、霧島連山を越え鹿児島の妙見温泉に至る。ここで妙見の誇る有名旅館に分宿し、地元の料理と温泉を満喫。三日目に鹿児島市内に入り、鹿児島中央駅に停車後、鹿児島観光へと旅は続く。幸運な事に、我が沈壽官窯も彼等の立ち寄り先に選んで頂いた。

 夜は島津家の磯別邸で郷土料理の夕食を取り、再び車中の人になる。そして、熊本阿蘇の高原野菜と搾り立ての牛乳で朝食後、熊本を経由して博多へ戻る旅だ。

 今、この旅の企画に注目が集まり、予約が殺到している。先日、私も博多で抽選会に顔を出し、五十七倍もの倍率から二組の御客様を選ばせて頂いた。

 そう。このツアーは申し込んでも取れないという、キャンセル待ちの状況が続いているのだ。更にそのキャンセル待ちの数も非常に多数と聞いている。

 この決して安くないツアー、一般庶民の感覚からちょっと手を出せない程の金額の企画に、こんなにも多くの予約が入るのか、私なりに考えてみた。

 九州の観光を論じる場は数多くある。その中で常に御題目の様に言われる言葉で「九州は一つ」という言葉がある。つまり、各県が単独で観光客を誘客するより、九州が一つにまとまって国内外から観光客を迎えよう、という戦略だ。その目的で「九州観光機構」なるものも設立された。しかし、実態というと、各県より出向してきた県職員は当然の事ながら、自らの出身県の事をまず考える。大分で何かをするのなら鹿児島でも行うべきだと主張するのである。結果、横並び現象が起き、「九州は一つ」どころか、却って「九州は一つずつ」という事態になってしまっているのである。そこに、登場したのがこの七両編成の豪華クルーズトレイン「ななつ星」である。先程、御紹介した様に、この列車は各県各地を、ページをめくる様に進んでいく。これが行政の企画であれば、民間は「役所の平等性」を盾に、先を争って我田引水に走るはずだ。しかし、JR九州という民間会社の企画である為、行政と適度な距離感を持っている。従って、その選定ルートには誰も口を挟めない。

その結果、面白い現象が起きた。ルートに選ばれたそれぞれの地域や企業が横並びでなはく、自ら独自の色を出そうとし始めたのである。行政に光をあててもらおうと日頃願っている人々が、今回は自分から発光しようとしているのだ。この様子は、実に稀有な事といって良い。私の目からは、まるで大小様々な形状の石がそれぞれ異なる発色と輝きを出し始めている様に見える。そして、それをレールという名のチェーンで繋げた格好だ。

 この様な現象は私も長く観光の世界にいて、見た事がない。もしこの模様をJR九州が既に見越していたならば、その慧眼には恐れ入る他ない。

 いずれにしても地域を考える上で、大きな新しい視点を与えてくれた様に思う。

 私共の工房に於いても、当たり前の事だが、常に御客様の目線で見つめ、モニタリングと修正を繰り返し、向上して行く事への気付きとなったのである。

 日本にはまだまだささやかではあるが、見所がある。そして、それぞれの味わいやもてなしを丁寧に味わえる旅を人々は望んでいたのかもしれない。これまでの音楽DVDのベスト盤の様な有名所だけを抑え、巡る旅ではなく、大切な友や伴侶、恋人とありふれた言葉だが、もう一度、地に足をつけて巡る、日本再発見の時間を待っていたのかもしれない。列車の観光に新しい切り口を作って頂いたJR九州に敬意を表したい。

 

 最後にもう一つ、列車といえば、肥薩オレンジ鉄道のオレンジ食堂も紹介したい。八代から川内までの間を地元の美味しい食材を用いて食べながら走る食堂列車である。敬愛する古木社長からの御依頼もあり、特製の沈壽官製のビアマグを提案させて頂いた。東シナ海の眺望を楽しみながらの小旅行を楽しみたい方にはオススメである。

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