直心直伝 「古文書に見る白薩摩の美」

2012年4月10日

 東日本大震災から早や一年が経ちました。地球の身震いは、一瞬にして実に酷く人々の築き上げてきたものを破壊し、そして奪い去っていきました。

私達は為す術も無く、ただ茫然と立ちすくみ、心の中まで押し寄せてきた未曾有の天災にただただ項垂(うなだ)れるばかりでした。

 今、日々の弛まぬ積み重ねの結果、瓦礫の撤去をほぼ終え、人々は新しい町の建設へと取りかかろうとしていますが、彼等に、あるいは私達の身の上に襲いかかったこの未曾有の天災を受け入れるには、やはり相当の「時」と同時に未来への「展望」が必要です。

 圧倒的な自然の猛威の前ではコンクリートのビルさえ脆く思えました。脆さという点では陶器作りを生業としている私達はなおさらであります。先月千葉三越で開催した展示会に於いても、会期中幾度となく震度三~四の大きな揺れを経験し、その度に展示作品を手で支える有様でした。

 私達は歴史的に幾度となくこの大地震の恐怖に晒されてきたと言えます。そして、これはこれからも私達の日本を襲い続ける事でしょう。そのような苛酷な運命を受け入れながらも、なおかつ先人達はたおやかな日本の美を作り上げてきたのです。薩摩焼とて同じです。絶望的な事実を受け入れる、そして受け入れた所から始まる、もしかすると日本人の強さの底辺はそこらにあるのかもしれません。

さて、昨年、「緑陰講座」でも御話しした薩摩焼の白土製作についてですが、順調に進んでおります。二月に各原料の水(すい)簸(ひ)も終わり、現在、組み合わせに入っています。夏までには結果を出し、次回の「緑陰講座」では実物をお見せ出来るように頑張って参ります。

純粋に鹿児島産の原料のみを使って薩摩焼を作り上げる事、それは一見子供じみた事に思えるかも知れません。しかし、世界で通用する工芸品はその土着のローカル性を究極まで追い求めたものでなければならないと信じています。究極のローカル、その向こうにこそインターナショナルの世界があるのです。

今回はこの薩摩の白土について、伝来の文書を中心に紹介したいと思います。

沈家には現在、明治二十一年から明治二十二年までの一年間分の「白土買入帳」が二十九帖、明治三十六年から同三十七年にかけての「加世田砂・揖宿白土・霧島白土買入簿」が十帖残されています。また、数多くの博覧会や共進会出品の為の解説書もあり、そこには十二代沈壽官により以下のような記述があります。

「諸器ノ原料ハ上ニシテ、其質堅(かた)ク、亦環入(かんにゅう)アルヲ以テ美トス。是ニ純金泥ヲ以テ畫(えが)ク、故ニ年ヲ経ルニ随テ環入多クナリ、金泥モ美ニ光沢ヲ生ス、依(よ)リテ古物トナリテ値段モ増価スルヲ以テ尤(もっと)モ薩摩特有ノ名産ナリ」

上質の原料を使って堅く焼き上げ、ガラス質の器面を貫入が覆っているものが美しい、更に年を重ねるにつれて貫入はより多くなる。と述べ、更にその素地に純粋な金泥を用いて絵付けを施されたものが最上であるといっています。

素地について説明する上で面白い資料があります。明治二十三年の京都の取扱業者 北中源二郎氏からクレームです。

「注文品、ひびあらく候ては売捌き口無之、ひびこまかき品入用、すべてひびあらくば注文致候品にても御送り事無御用」

注文して届いた品は貫入が粗くて売り先がない、細かい貫入のものを必要としている。貫入が粗く焼き上がったものは注文品であっても売れないから送らないで下さいというものです。

これを見ても堅く焼かれた白い陶胎に細かな貫入の入った釉薬のものが上質の素地であるとされていた事が分かります。

更に絵付けについては、

「該器ハ環入(かんにゅう)アルヲ以テ古(いにしえ)ハ画彩ナシ、若(も)シ是レニ画彩スルニ於テハ純粋ノ正金泥ヲ以テ厚ク盛ラセ、又絵具、薩摩絵具ハ一種ノ者アリ、是レヲ画彩スルニハ 素地ヲ能(よ)ク見セ 絵ハ極(ごく)マバラニ画彩シアルヲ薩摩ノ古有ト云フ」

これは、昔は貫入のみで見せる仕事をしていて、絵付は無かった。もし、この上質の素地に絵付けをするならば、純粋な金泥を厚く盛らせながら、しかも素地を見せる為にまばらに描く事が薩摩流であると述べています。更に

「近年ハ諸々ニ於イテ薩摩焼ノ模造品(もぞうひん)沢山有リ、是レハ全ク全盛タリ、下ニ絵具ヲ以テ 下書(したが)キニシ、上ニ金箔ヲ塗リ附ケタル者ニテ、年ヲ経ルニ随(したがい)テ而金色悪クナリ、扨(さて)正薩摩焼ハ純金泥ヲ以テ金ヲ厚ク盛リ故ニ年ヲ経ル程金色美ナリ、依テ吾出品ハ薩摩古有ノ純金泥絵具等ヲ以テ金ノミ盛金画彩ニ付、尚生地ノ環入等モ模造品トハ違ヒアルニ依リ能ク審査御主眼ヲ乞」

 近年、他の産地で作られる薩摩焼風陶器、いわゆる模造品は絵付けの際絵具で下書きをし、その上に金箔を塗り付けている為に経年により金が退色する。正しい薩摩焼は釉薬の上に直接純金の泥を厚く盛っているために年を経るに従って、金の発色が更に美しくなる。また、貫入も模造品とは異なるのでよく見て審査をして下さい。と、述べているのです。

 つまり、薩摩焼の絵付け並びに他の装飾技法はその素地の美しさを際立たせる為のものであるということなのです。ついつい豪華な上絵付けや彫刻技術に目を奪われがちですが、実は素地の完成度が何よりも優先されるのです。

一、土 二、焼 三、細工とは第一に堅く焼締った白い胎土、二番目にそれを包む微細貫入を持った柔らかな透明釉、三番目にそれらを際立たせるための絵付けを含む細工仕事の順であるということなのです。白薩摩の原料にこだわる理由は以上の様な理由です。

ページの先頭へ