直心直伝「一通のお便り」

2014年7月26日

梅も散り、いよいよ桜の開花が待ち遠しいこのごろですが、今回は一通のお便りを紹介します。関西の企業でバリバリ働いている息子さんに、鹿児島のお母様が送った手紙です。その息子さんも、今はとうに定年退職し今は、故郷の鹿児島に戻って余生を送られていると聞いてます。私はこのお母様からの御手紙を、息子さんからずいぶん前に見せて頂きました。遠くにいる息子を想う明治生まれの薩摩オゴジョの心意気を感じます。

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桜花爛漫 善福寺恒例の茶会、吟詠お花祭り今春も総出老若男女悉く御稚児さんには桜の枝を、蓮華に菜の花と雪洞添えて大層賑やかでした。百花繚乱、春風駘蕩、薫風の香気微風に吹動してあまねく山門に芳わし。

さて、伊集院には使いを出して直にお手元に届けるやう申しております。沈壽官ドンの黒千代香は、使用前に一晩清水にひたしておくのが用心、この前には泉水につけてから送りましたが、今度は伊集院がじかに届けますからそちらの方で清水にひたしてから使う様たのんます。折ふしに茶巾に茶しぶをふくませ千代香を磨いて下さい。沈壽官物は磨くほどに年を重ねて陽光を発し高雅です。黒千代香には我が薩摩の樋脇麓の田苑が似合います。

塚田ドンの名酒を添えました。春夏秋冬 四季によし雪見に桃の節句によし、桜に白蓮 十五夜に芒、竹林と松風、床の間に縁側、まことにどこにあってもよか、あればよし沈壽官の杯で嗜む時丈は御作法通りにして給もんせな。よかな。田苑はそのままうすめずに黒千代香で火が付く程の熱燗は若衆のニセドン(※①)達の壮者にふさわしく、天下国家を語って意気軒昂チェストー(※②)気合いがかかってきていさぎよかー。

湯上りの夏場は縁側で氷を入れて冷でキューンとしてもよか。

香の物にはデコン(※③)があればそれでよか、ぢゃっどん(※④)おつかれさんの夜長には矢張り御湯割りもよすごわす。先ずはお湯、お湯が先でごわんど、六分か七分先にお湯を入れそいから田苑をソロリソロリとトックントックン渕から注いで身を寄せる。出和雅音、出微妙音、其音演悦、微妙香潔、微風吹動、無量無辺、ただ身はひたすらに桃李の装いの中に在り。

おおらかに、只 ほれぼれと深山幽谷、幽玄陶然、観音の宝酒に身を任せ、御慈悲の世界に這入って来て給もんせ。

鹿児島の福応寺法主さん今年も又京都西本願寺さんに定例布教に行かれますから会ってやって下さい。覚正寺の皆様にもよろしく。      合掌

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この手紙を読むと、黒千代香を茶しぶをしみこませた茶巾で磨く様に指示しています。現在では、誰もやらない事です。是非試してみたいものです。又、焼酎の燗のつけ方や注ぎ方、また、酒采に至るまで実に描写力豊かに書いてあります。お母様自身もお好きだったのでしょうか。非常に酒飲みに寛容で、且つ、好意的です。私が、このお手紙に惹かれるのは、それが原因かもしれません。

※①十五歳以上の男子

※②鹿児島の独特のかけ声

※③大根

※④しかし

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