地下鉄の前に立派なビルがある。
これはミシンのメーカーとして世界的なシンガー社が1900年代の初期に建てたものだそうだ。
当時としては最新のオフィスビルだったろう。
ただしシンガー社の不幸は、建てた直後にロシア革命が起きた事だ。
ロシア革命は正確には二回ある。
ブルジョア革命とプロレタリア革命だ。
最初の革命が1915年、次が1917年。
ロシアはそれ迄、大地主が伝統的に地方を支配していた。
領主は夏の間は支配地にいて、冬になると街に移り、毎晩贅を尽くした舞踏会に明け暮れた。
その間、農奴達は本当に貧しさと戦っていたのだ。
やがて、産業革命の結果、工場が出来ると農奴と地主という二極化の間に工場労働者と経営者という新しい土地に依らない階級が生まれた。
新興の経営者は土地は持たないが、金はある。
いつまでも貴族にデカイ顔させとく訳にいかない。
ロマノフ王朝に対する不満は充満していた。
そして、ついに一次革命は起きた。
しかし、被支配者である労働者や農奴にしてみれば、貴族が消え、替わりに新興の金持ちが取って代わったに過ぎなかったのだ。
不満は収まらない。
その頃、工場労働者であったレーニンはその弁舌で次第にその存在感を強めていった。
そして二年後、二次革命が起こる。
リーダーはレーニンである。
シンガー社の最新のオフィスビルは新しい支配者に奪われ、そして国旗すら変えた、新しいロシアになっても、未だに帰して貰ってない。
可哀想なシンガー社はロシア政府に返還を求め続けている。
一度、奪ったもの、手に入れた物は決して帰さない。
それが例えば砂一粒であったとしても。
ロシアのことわざに『わらの上の犬』という言葉があるそうだ。
犬はワラを食べない。
しかし、ワラを取ろうと近付くと、うなり声をあげて威嚇する。
僕たちの島々もなかなか帰ってきそうにない。
