故郷

15代日記 | 2008年5月28日

 久しぶりの故郷はやはり佳いものだ。
 『故郷の山に向かいて言うことなし。故郷の山はありがたきかな』
 まさに、そんな感じだ。

 正門は瓦も乗りその全容を明らかにしつつある。これから扉の交換にかかる。そうなると、以前の枯れた大門から、俄かに若く力強い物に変わるだろう。
 一見、堂々とした体格に見えてはいたが、二百年を超えて風雪に耐えた老体は腐れと枯れに深刻に蝕まれていた。
 それでも残された骨と皮だけでも、何とかその威厳を保とうと、ようやく立っていたのである。
 そんな事情を知らない人は必ず言うだろう。
 『昔の方が風情があって良かった…。沈さん、新しいものが必ずしも良いのではありません。あなたもいつか分かりますよ…』と。
 僕と正門は、これからはそんな無責任な批判に黙って耐えなければならない。しかし、古い物を粗末にするようなら、こんな家を背負うはずが無い。家業を継ぐと云うことは、この家が抱えている哀しみを全て引き受ける事なのだ。そしてそれは当事者以外誰にも理解出来ない事なのだ。
 古い材でも傷んでいなかった物は、引き続きその任にあたり、限界と判断された物は新しい物(最高の材料)と交換された。
 僕の耳には、全ての病巣を取りのぞかれ、新しくなった部材と共に、その甦った己の強さを、うなり声を挙げて喜んでいる正門の声が聞こえてくる。
 『良くやってくれた』と……。

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