海の幸

15代日記 | 2008年5月23日

 家を遠く離れている時は、食事もちょっとしたイベントだ。特に夕食はそうである。
 そして昨夜は、僕の大好物の甲殻類の一つ『岩牡蠣』と出会えた、実に至福の夕食であった。
 一般に牡蠣は『R』の付く月(九月〜四月)がシーズンであり、逆にこの時期を外すと危険だと言われている。
 ところが『夏牡蠣』とも呼ばれている『岩牡蠣』は違う。そのヤバイ時こそが旬なのだ。
 不思議である。そもそも種類が違うのか、それとも育つ環境が違うだけなのか…。いずれにせよ、多くの者が舞台を退いた時に、満を持して登場してくる訳で、まさに千両役者である。 
 体格も素晴らしい。普通の牡蠣の数倍の図体を持ち、中身も充実していて大きく、歯応えすら感じる程である。味は、決して大味でなく、普通の牡蠣をぐっとミルキーにした感じである。   
 昨夜は取引先の善波さんに連れられて、米子加茂町の『食留芽』(ぐるめ)にお邪魔した。ここは個展初日、天満屋米子店の藤川店長にご案内頂いた店で、米子の有名店である。そして、境港の鮮魚卸会社からの指定の店でもあり、当然素材は一級品である。
 基本的に家族でやりくりされていて、店表は母親と娘さんを中心に全て女性スタッフが仕切る。これが一流和食店の緊張を適度にほぐしてくれていて、ママキッチンの肩が凝らない優しい雰囲気と清潔感を醸し出している。
 大概、老舗、名店と云うと主人の全身から、何とも言えぬ威圧感と殺気が漂うものだ。それが結果的にお客にも緊張感を強いてしまう。
 天才、北大路魯山人が『料理の基本はすべからく、素材の旨味を引き出す事に加えて、お袋の味でなければならない』と言っている。
 大切な事だ。
 
 それにしても、昨夜の『岩牡蠣』はとりわけ巨大であった。今まで食べた物の倍近いサイズだ。此れ程の物はかなりの沖合いの岩場にしかないそうで、荒海に飛び込んだ海女の頑張りと、善波さんの手配、『食留芽』の仕立ての良さに感謝感激であった。
 こうして見てみると、この山陰の海山の豊かさには驚かされる。質量共に圧倒的である。我が愛する鹿児島の旗色がとても悪い。
 更に、鹿児島以上に宣伝下手な所が、結果的に資源を高いレベルで維持させている。
 
 故郷や素朴が一山幾らで売られる時代にあって、その傍らで静かに時を過ごし、健やかな海山の恵みに浸れる土地がある。
 地元の人には申し訳ないが、投入堂の世界遺産指定は暫らく我慢して欲しい。その間に僕が何とか口実を作っては、せっせと通わなければ!と『岩牡蠣』の分厚い殻を見ながらセコく心に誓った。
 タクシーで戻る時に振り替えると、若女将の理絵さんが、深々と頭を下げ見送ってくれていた。
 御馳走様でした。

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