『武神』金先生

15代日記 | 2009年6月18日

 先日、我が家にアメリカ大統領の護衛官(SP)達に護身術『韓武道(ハン・ムドウ)』を創始し指導しておられる金先生がいらっしゃった。
 この先生はテコンドー五段、講道館柔道五段、日本合気道五段、韓国古武道の達人と云うまさに『鬼』の様な方だ。
 同時に史学博士でもある。
 僕は武道を体系化し、更に六百もの技を紹介した分厚い本を頂き、それだけで強くなった気がした。
 
 先生は現在七十一歳。
 全身から出てくる穏やかな雰囲気に込められた闘気は未だに衰えず、まさに『武神』そのものだ。
 
 僕は恐れ多くも、この『武神』を前にして薩摩の根性を見せてやろうと思ったのだ。
 
 『先生、昔の薩摩の男は「一年片頬(かたふ)」と言って、一年に一度、片方の頬を動かすだけで笑いは十分だ、と言ったそうです』
 すると『武神』は大きな身体を軽く揺すり、笑顔で優しくこう言った。
 『昔の韓国の男は一生に三回しか笑わなかった。一度目は科挙の試験に合格した時だ。二度目は、当時、男女は結婚式当日まで顔を会わす事が無かった。従って、式の朝、相手と初めて会い、その女性が自分好みの女性だった時に笑うのだ。そして三度目は死ぬ前に自分の人生に感謝して笑う』と。
 だから僕は尋ねた。
 『では先生、科挙の試験に落ち、式の朝、絶望的な出会いをした男は一度しか笑えませんね』
 すると『武神』いわく。
 『その男は死ぬ前も笑わないだろう』
 …僕もそう思った。

 楽しい夕食を供にして、ホテル迄お送りした。
 先生と奥様は心からのお礼を述べられた後、手をつないで食後の散歩へと、ゆったりと向かわれた。

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