こんな詩に出会った。

15代日記 | 2009年4月2日

 大人になるということは
 すれっからしになることだと
 思い込んでいた少女の頃
 立ち居振る舞いの美しい
 発音の正確な
 素敵な女のひとと会いました
 そのひとは私の背伸びを見すかしたように
 なにげない話に言いました

 初々しさが大切なの
 人に対しても世の中に対しても
 人を人と思わなくなったとき
 堕落が始まるのね 墜ちてゆくのを隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

 私はどきんとし
 そして深く悟りました
 大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
 ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
 失語症 なめらかでないしぐさ
 子供の悪態にさえ傷ついてしまう

 頼りない生牡蠣のような感受性
 それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
 年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
 外にむかってひらかれるのこそ難しい
 あらゆる仕事
 全ての仕事の核には
 震える弱いアンテナが隠されている きっと…
 わたしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
 たちかえり
 今もときどきその意味を
 ひっそり汲むことがあるのです

 茨木のり子『おんなの言葉』より

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