トンビ

15代日記 | 2008年11月15日

103-1
 八木君の会社の車で『東尋坊』迄走ってもらった。
 自殺の名所などと聞いていたから、目の眩むような断崖と荒れ狂う鉛色の海、コートの襟を立て一人たたずむ女……をイメージしていたが、いやはや立派な観光スポットである。
 青い海に遊覧船が走り、断崖の下、つまりは飛び込み着水する予定地辺りは船着き場になっている。
 売店が軒を連ね地元特産品が売られている。
 さらに旅行と云うと、バスの中でひたすら缶ビールを飲み、真っ昼間から酔う事でしか旅の実感を味わえない、と信じて疑わない輩が、真っ赤な顔をして同行の女性社員達に声高に何か話している。
 平和な光景だ。
 その昔、越前の平泉寺に東尋坊と言う名の狼藉僧が居て、こいつが余りに暴れ者なので、皆でこの海に放り込んだらしい。
 更に海中でも大暴れしたらしく、海は大層荒れたそうだ。

 そんな話を聞きながら、帰りがけに、ソフトクリームを買い、三人で車に向かって歩いてた…その時だ!
 大きな影が僕の隣を歩いていた運転手さんのソフトクリームに音もなく後ろから突如襲い掛かった。
 トンビだ!
 ソフトクリームはコーンごと弾き飛ばされ、アイスは路面に飛び散った。
 更にその落ちたアイス目がけて、次々とトンビが急降下してくる。
 見上げると数羽のトンビが低空で旋回している。
 そのデカさと固そうな胴回りに怯えた僕は、思わず自分のアイスを投げ捨てた。
 秘書の西本さんは、「怖い…」と後退りしながらも、何故かソフトクリームを食べ続けていた。
 恐怖の余り思考停止になったのか…?あるいは、この辺りが越前女の肝っ玉なのか…。
 今後、東尋坊を訪れる若い衆はナスを持って、すっくと立っていると、何か良いことがあるかもしれないて思った。
 
 東尋坊の闘争本能は海を出て、大空を舞うトンビに乗り移ったらしい。
 トンビと言えば昔、車で鹿児島の高速を走っていたら、いきなりフロントグラスにトンビが激突してきた事がある。
 その大きさはフロントグラスの半分以上だ。何か中央分離帯に居たのだろう。二度もトンビに以上接近されるとは。

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