『イト』

15代日記 | 2008年9月9日

83-1
 運転と云えば、熊本の阿蘇をドライブした事がある。
 鹿児島とはどうも違う景色だ。
 何というか視界が遠い…、そう、見晴らしが良い。
 これは道が緩やかな尾根を走っているからだ。
 
 鹿児島でこんなポジションから景色を見ようとしたら出水か指宿方面に限られるのではないか?。
 
 鹿児島は全体的に視界が近い気がするのだ。
 大概、道のどちらかに崖か山がある。
 故に鹿児島のダイナミックな良景は霧島を除くと海沿いに限られてしまう。

 何故だろう?

 太古の時代に『イト』と云う名の火山が大爆発を起こしたと聞いた。
 火口は錦江湾、現在の桜島の脇の海底の辺りにあり、鹿児島の薩摩・大隅両半島そのものが外輪山だと云う、超ド級の巨大クレーター『姶良カルデラ』のご本尊である。
 この気立ての優しい、利発そうな名前の女『イト』が起こした空前絶後の大噴火は、膨大な量の火砕流を噴出し、鹿児島の殆んどを覆い尽くし、現在のシラス台地を形成したと云う。
 
 恐ろしい女だ。
 だから名前や見た目に騙されてはいけない。

 やがて、この台地を雨水が穿(うが)ち、小さな川を作り、それはやがて谷となった。
 鹿児島の人々はそこに暮らし、道はこの谷あいの川に沿って造られたのだ。
 故に、景色が近い、即ち見晴らしがあまり宜しくない…、と云うのが僕の考えである。
 
 さて、もしかしたら、太古『アソ』と『イト』二人は愛し合っていたのかもしれない。
 しかし何故か二人は別れなければならなくなった。
 『アソ』に対して『イト』は泣き、怒り狂い、悶えた。
 錦江湾はその時の『イト』の悲しみの涙であり、膨大な火砕流は『イト』の「想いのたけ」だったのかもしれない…。
 
 僕達、薩摩は『イト』の子だ。
 そして、今はただただ、彼女の安眠を祈ってやまない。
 『イト』を目覚めさせるのは唯一『アソ』だろうから…。

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